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犬を眺めて人生を考えるおじさんブログ

林語堂の『蘇東坡』
20060914235004
林語堂の『蘇東坡』を読み終える。上下で600ページを越える小説である。お盆までに上巻を読んでいたのでお盆には下巻が読めるはずであった。しかし今日までかかってしまった。
この小説は中国一の文人蘇東坡を小説にしたものである。林語堂は最近亡くなった現代の文筆家であるが、この小説は彼の代表作であり、なおかつ彼が一番気に入っていたものであったらしい。現代中国文学史では林語堂は余り高い評価を受けていなかった。それは共産主義に反対したばかりでなく完全な自由主義者であったためである。僕などは中国文学史の講義で近代の自由主義文学者としてちらっと習っただけである。
この作品を読んでみると蘇東坡という人がどのような人であったかよくわかる。また図式的に習った旧法党と新法党の抗争が、目の前で同時代的に進行しているような気さえする表現が続く。歴史小説や伝記小説においては、実在の人物を描く限りその資料をふまえて論じないと実像と離れたものとなる。しかし余りにも資料に忠実であると、面白味がない。訳者のあとがきによれば林語堂は蘇東坡の文や詩をふんだんに引用してなおかつ素晴らしい文学となっているらしい。
さらにこの小説が英語で書かれたと言うことも重要である。蘇東坡の詩や詞は、彼の心情を述べる重要な手段であって、それを理解しないことには蘇東坡を理解することができない。しかし漢詩を読みくだして味わってもその意味がわからない僕などは、彼の心情を理解することは初めから無理である。林語堂はすべて詩文を分かり易い英語に翻訳して小説を書いているから、この訳詩を読むと漢文を読むよりずうっとよくわかる。また訳者がそれぞれの詩文の典拠を注にあげてくれているので原文にまで溯ることができる。
この小説を読むことによって蘇東坡と林語堂の二人に会うことが出来、中国文学の面白味と文人の理想を知ることができる。

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